Ame Magazine〜秋田を深めるインタビューマガジン〜

「365日のうち、1日でも秋田のことを考えるだけで良い」ーー大館鳳鳴高校出身・武田昌大さんインタビュー

 2018-11-15

「365日のうち、1日でも秋田のことを考えるだけで良い」ー大館鳳鳴高校出身・武田昌大さんインタビュー

秋田の若い世代のキャリアガイドとなるメディア『Ame Magazine』。

2回目のゲストは、大館鳳鳴高校出身の武田昌大(たけだまさひろ)さん。若手米農家集団「トラ男(トラクターに乗る男前たちの略称)」や、年貢を納めて村民になり、村に見立てた古民家に宿泊したり、イベントに参加したりできるプロジェクト「シェアビレッジ」の仕掛け人です。

小さいころは秋田が好きではなかったという武田さんが、なぜ地域活性化に携わるようになったのか。秋田の若い世代へのメッセージも含めて、そのストーリーを伺いました。

聞き手:庄司智昭
カメラマン:武石将知

夢を叶えるため、秋田を出ようと思っていた幼少期

――武田さんはトラ男やシェアビレッジなど面白いプロジェクトを続々と展開しています。もともと秋田のために何かしたいという気持ちがあったのでしょうか?

武田さん:いえ。むしろ、秋田を出たいという気持ちの方が強かったです。

――そうなんですね! なぜそう思っていたのですか?

武田さん:昔から新しいものと面白いものが好きで。秋田は流行も3年くらい遅れてやってきますし、変化も少ないので(笑)、漠然とした東京への憧れがありました。

また、当時はファミコンやプレステが出始めた時期だったので、エンタメの世界に憧れていました。小学校のころの夢は「ゲーム会社で働くこと」だったんです。その夢を叶えようとしたときに、秋田では難しいので将来は東京に出ようと思っていました。

――実際に秋田は出られた?

武田さん:大学から秋田を離れました。都会に行きたくて、京都にある立命館大学を受験したのですが、理系は京都でなく滋賀県で……。プチ田舎でしたね(笑)。

「365日のうち、1日でも秋田のことを考えるだけで良い」ー大館鳳鳴高校出身・武田昌大さんインタビュー

――大学に入ってから、秋田の印象は何か変わりましたか?

武田さん:入学して言われたのが「秋田ってどこ?」という言葉でした。これが衝撃的で。地元から外に一歩足を踏み出したら、秋田は存在すら知られていなかったんです、「何があるの?」と言われることも。イラっとしましたし、何も説明できない自分にも腹が立ちました。ただ、当時もゲーム会社で働くことしか考えていませんでしたね。

――卒業後は、大手ゲーム会社で企画のお仕事をされていたと。夢が叶った瞬間ですよね。

武田さん:そうですね。その一方で、今まで考えていた大きな目標が消えてしまい、燃え尽きてしまったような感覚がありました。なぜかと考えて分かったのは、夢というのは「なりたい自分の姿」を考えなければいけないのに、僕は「職業」で捉えていたということ。

「自分は結局何がしたかったのかな」と突き詰めていくうちに、ゲームに限らず、人を喜ばせたいという思いが根底にあったことに気付いて。小さいころからそうだったと思うのですが、言語化できたのは秋田で地域活性化の取り組みを始めてからでしたね。

100人の農家に訪問して、他人事が自分事に

――秋田での活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

武田さん:24歳のときだったと思うのですが、いつものように実家に帰ると、鷹巣の商店街に全然人が通っていなくて。いわゆるシャッター街になっていたんですよね。

働いて数年が経ち、心に余裕ができたときに、初めて地元の現状に向き合ったんです。秋田のために何かをしなければいけないという目標が生まれた瞬間でした。

――それからすぐに行動を?

武田さん:いえ。会社を辞めることはなく、最初は秋田に関連したイベントに参加するぐらいでしたね。ただ、少しずつ地元を好きになり始めた自分に気が付きました。

特に印象に残っているのが、WE LOVE AKITAという団体が主催していたイベントに参加したときです。歌舞伎町で秋田の料理やお酒を飲むというもので、参加する前は正直「盛り上がってないだろう」と思っていたんです。ただ、行ってみると300人くらいの参加者がいて(笑)。

――300人も!

武田さん:「秋田が好きだ」と言っている人に初めて出会いましたし、鷹巣以外の出身の方と話すのも新鮮でした。同じ秋田県なのに、県北と県南では違うことが多いんですよね。そんな時間が楽しくて、同時に秋田県民のパワーも感じた瞬間でした。

――同じ秋田県民との出会いが武田さんを変えたんですね。

武田さん:そうですね。その後、青山で毎週開催されているファーマーズマーケットで、秋田の特産品を売るというお手伝いをボランティアでしていました。そこで、お米の生産者の話を聞いていると、後継者がいないことや価格が下がっていることなど、さまざまな課題があることが分かって。農業から秋田を変えなければいけないと思ったんです。

「365日のうち、1日でも秋田のことを考えるだけで良い」ー大館鳳鳴高校出身・武田昌大さんインタビュー
武田さんが立ちあげたトラ男のWebサイト。専業農家の3代目である3人の「つくり手」と、彼らの想いを伝える1人の「つたえ手(武田さん)」の4人のチームで、定期的にお米を届けたり、稲作体験を提供するといったコミュニティを作っている。

――その気づきがトラ男につながったと。

武田さん:はい。一方で、農家の友達がいなければ、ノウハウもないので、農家に話を聞くことから始めました。土日に秋田へ帰り、とりあえず田んぼに行ってみるみたいな。でも、人見知りで話しかけるタイミングが分からなくて、完全に不審者でしたね(笑)。そんなことをしていると農家の方から話しかけてもらえて、何をしているんだと。

――農家に飛び込みで訪問したんですね。

武田さん:「農業を学びたい」と理由を話してみると、手伝わせてもらえることになったんですよ。さらに夜は集落のおじさんたちで集まり、深夜まで飲むことも多くて。2時に寝て、4時にたたき起こされるみたいな生活を送りましたね(笑)。でも、これまで何も知らなかった世界を一から教えてもらったので、非常に充実した時間でした。

結果的に3か月で100人の農家にヒアリングしたのですが、問題に感じたのは流通の仕組みでした。JAは必要な仕組みですが、作り方がそれぞれ違うお米なのに、同じ価格で買い取られてしまう。インターネットを使うことで、この常識を変えられるんじゃないかなと。当時は25歳でしたが、今がチャンスだと思い、トラ男を始めましたね。

なので、最初は「秋田を盛り上げたい」ではなく、出会った農家の人たちを助けたいという気持ちの方が強かったです。他人事が自分事に変わった瞬間でした。

まずは秋田を知ってもらう「シェアビレッジ」

――トラ男を始めてから、本格的に秋田の活性化に取り組まれてきたんですね。

武田さん:そうですね。最初はボランティアでやっていて、少ない量でしたが完売状態が続きました。でも、副業的にやっていても、農家の状況は何も変わらなかった。そんなときに、農家の方と真剣に話をして、本業にする覚悟がつきましたね。

――安定した生活を捨てて起業するのは怖くなかったですか?

武田さん:確かにお金のためだったら、東京で働いていた方が良かったです。ただ、先ほども少し述べたように、人を喜ばせたいという気持ちが根底にあることが分かって。

もちろんゲーム会社で働くことも世の中にインパクトがあって、人を喜ばせることもできます。しかし、多くの人たちが関わっていて、自分で作った感覚がないし、目の前にお客さんもいません。その点、トラ男は目の前でお米を食べてもらい、お客さんに「美味しい」と言ってもらえる。しかも、それが農家のためになり、秋田のためにもなる。こんなにやりがいのあることはないですし、生きていて楽しいと思いました。

「365日のうち、1日でも秋田のことを考えるだけで良い」ー大館鳳鳴高校出身・武田昌大さんインタビュー

――起業されてからは順調に?

武田さん:ネーミングや情報発信を工夫して、多くのメディアに取り上げてもらいましたが、トラ男で食べられるようになるまでは3年くらいかかりましたね。そこまではWebの仕事も副業的にやっていました。現在は、お米の総扱い量が初年度の60倍になっています。

――2015年からはシェアビレッジも始められました。

武田さん:秋田を元気にしたいと思ってトラ男を続けてきたのですが、4年くらい過ぎて、このままだとお金は稼げるようになるけど、人は減ってしまうことに気が付きました。

だから、秋田に移住してもらう人を増やさないといけない。でも、秋田のことを知ってもらうイベントや農業体験には来てもらえるけれど、移住は結構ハードルが高いですよね。多くの自治体は「自然でいっぱい」とか「野菜をおすそ分けしてる」と同じことを言っているので、都会の人にとってどこが良いのかも分かりづらい。いきなり移住するのではなく、まずは知ってもらうことから始めたのがシェアビレッジでした。

「365日のうち、1日でも秋田のことを考えるだけで良い」ー大館鳳鳴高校出身・武田昌大さんインタビュー
シェアビレッジのWebサイト。多くの人で1つの家を支える仕組みを作り、全国の古民家を村に変えながら、「100万人の村」にすることを目指しているという。

――今でいう関係人口のような考え方ですね。

武田さん:はい。地方に移住することに興味がある人は増えてきていると思うので、その人たちが集まることができるコミュニティが作れたら良いなと。

秋田のコアなファンは少ないかもしれないけれど、シェアビレッジというコンセプトには1万人の方が賛同してくれるかもしれない。その中の数%が秋田のことを好きになってくれたら、誰かが「移住しろ」と言われなくても、勝手に移住してくれるかなと思ったんです。現在は47都道府県に約2,100人の村民がいますが、これからも全国に村民を増やしていきたいですね。(2018年7月時点)

一番大事なのは、「秋田が好き」という気持ち

――ありがとうございます。今までのエピソードにも随所にありましたが、武田さんがそこまで秋田を好きになった理由をあらためて教えていただいてもいいですか?

武田さん:秋田には面白くて大好きな人がたくさんいるんですよね。おじいちゃん・おばあちゃんしかいない町内会のお祭りとか、準備を手伝ったり、話しているだけでも楽しいですよ。もちろん、人が少なかったり、星空がきれいだったり、四季を感じられるのも良いけれど、そうした好きな人たちとお酒をくみかわせるのが一番大きいかもしれませんね。

東京にも面白い人はいるのですが、地方には何もないからこそ一つの道を究めている「変態」がたくさんいると思うんです。牛について語り出したら止まらないみたいな(笑)。

だからこそ、秋田には逆にすごく可能性があると思っていて。東京は人口がたくさんいる中で、新しいことを始めて成功するのはすごく難しいです。でも、秋田は伸びしろしかないから、すべてがチャンス。何か挑戦してみたい人は、ぜひ来てほしいですね。

――秋田のために貢献したい、いずれは地元に帰りたいけど就職先がないから不安という若者も多い気がするのですが、そうした方々へのメッセージをお願いできますか?

武田さん:他の地域にいながらできることもあると思うんです。友達に秋田の特産品を紹介するとか、帰省するときに連れて行くとかでもよくて。甲子園で金足農業のことを応援したり、何か情報発信をしたりするでもいい。

1年のうち364日は東京で、1日だけでも秋田のことを考えていたら僕は良いと思っています。一番大事なのは、「秋田が好き」という気持ちなんです。そういう思いを持った人が増えれば、少しずつ秋田は変わっていくのではないかと思っています。

――最後に、武田さんが今後挑戦していきたいことを教えていただいてもいいですか?

武田さん:次は地元の鷹巣を盛り上げていきたいです。詳細はまだ言えないのですが、人とお金を地域に呼び込むサイクルを作るため、新たなプロジェクトを仕掛けています。ヒントは、秋田に豊富にある木材を活用すること(笑)。ぜひ楽しみにしていてください。

「365日のうち、1日でも秋田のことを考えるだけで良い」ー大館鳳鳴高校出身・武田昌大さんインタビュー
取材は、2017年に日本橋でオープンしたおむすびスタンド「ANDON」で行われた。「秋田の魅力と東京をつなぐ拠点を作りたかった」と、武田さんは語る。
Profile image
1985年生まれ、秋田県北秋田市鷹巣出身。大館鳳鳴高校を卒業後、立命館大学情報理工学部に進学。大手ゲーム会社に就職し、後に秋田の若手米農家集団トラ男を結成。秋田のお米のネット販売サイトなどを運営中。
2015年にはクラウドファンディングで約617万円の資金を調達し、築134年の古民家を活用した「シェアビレッジ」を立ち上げる。また、2016年に内閣府より地域活性化伝道師に選ばれ、全国で講演を行いながら、地域活性化に取り組んでいる。

今回のインタビューメンバー

Ame Magazine ライター/編集者
1992年生まれ、秋田県北秋田市出身。主に、東京にこだわらない働き方を支援するシビレ株式会社と、編集デザインファームのinquireに所属。ローカルとテクノロジーの領域に関心があります。情報発信を通して、挑戦する人を後押しできればと思っています。

  • ・秋田南高等学校
  • ・東京学芸大学
  • ・フリーランス(現在)
Ame Magazine カメラマン
1994年生まれ、秋田県能代市出身。大学時代に趣味でカメラを始め、学業の傍らインターンやイベントでカメラマンとして活動。日本酒と温泉が好きです。

  • ・能代高等学校
  • ・電気通信大学 情報理工学部
  • ・電気通信大学大学院 情報理工学研究科(現在)

取材メンバーの編集後記

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