ame magazine

僕にとっての「ローカル」とは――武田昌大さんインタビュー編集後記

僕にとっての「ローカル」とは――武田昌大さんインタビュー編集後記

武田さんを初めて知ったのは、成人式のことだった。

一般的な成人式は1月に行われると思うが、私の地元である秋田県北秋田市は毎年8月に行われる。当時は大学3年生で、就職活動を目前にしていた時期だった。

Webメディアのライターや編集者になりたい、ローカルに関する情報発信をしてみたいという漠然とした希望はあったものの、どうするべきか悩んでいた時期だったと思う。

そんなときに成人式で講演をしていたのが、今回取材をした武田昌大さんだった。

講演で何を聞いたかまでは覚えていないが、秋田県は自殺率や人口減少率がトップなどの暗いニュースが多い中で、「こんなにも頑張っている方がいるのか」と衝撃を受けた。

その後も、「トラ男」だけでなく「シェアビレッジ」など話題のプロジェクトを立ち上げ、秋田の地域活性化における中心的な存在となった武田さん。

そんな武田さんに今回話を聞けたのは非常に嬉しかったし、自身の将来についても考え直す機会となった。

「秋田」という大きな枠組みにはピンとこない

僕にとっての「ローカル」とは――武田昌大さんインタビュー編集後記

取材で印象に残ったのは、何か秋田のためにアクションしたいという若者へのアドバイスをという質問に対して「1年のうち1日だけ秋田のことを考えるだけで良い」「自分の半径3km以内を救うと、自然と世界が変わっていく」と、答えてくれたことだった。

こんなことを言うと怒られてしまうかもしれないが、僕は「秋田」という大きな枠組みには、あまり関心を持つことができない。決して地元が嫌いとか、どうなっても構わないと思っているわけではない。

ただ「人口減少率が全国でトップ」とか「地方創生」という言葉を聞くたびに、どこか自分に関係がないような感覚を持ってしまうのだ。

なぜなのかと考えたときに、武田さんが「トラ男を始めたのは100人の農家に訪問をしたときに、この農家たちを助けたいと思ったことがきっかけ」と言っていたのを思い出した。

確かに「秋田が今ピンチだから助けてくれ」と言われてもピンと来ないが、学生にお世話になった先生や辛いときに助けてくれた友人、家族からのSOSがあったら、何かできないかを考え、行動に移すだろう。

大事なのは、“人の顔が見える”ということかもしれない。関係人口というフレーズが盛り上がっているのも、このような文脈なのではいだろうか。

何が言いたいかというと、今でも「秋田」という大きな枠組みにはピンとこないということだ。大きな枠組みと書いたが、どう表現したら適切かが分からない。でも、何となく言いたいことが伝わったら嬉しい。

何度も言うが、秋田が嫌いなわけではない。しかし、こんなことを思ってもいいのかと考えたときに、武田さんの「1年のうち1日だけ秋田を考えるだけでも良い」「自分の半径3km以内を救う」という言葉が、僕を助けてくれた気がする。

それでもローカルマガジンを始めた理由

僕にとっての「ローカル」とは――武田昌大さんインタビュー編集後記

そんなことをあれこれ考えて始めたのが、「おきてがみ」というWebマガジンだ。noteのプラットフォームを活用している。

「秋田にピンとこない」と言いながら、テーマは「ローカル×情報発信」にしてみた。ライター・編集者として、「なぜローカルの情報発信をしたいのか」と聞かれたときに、今まではよく「地元の秋田が過疎化していく様子を目の当たりにしたから」と答えていた。

しかし、そう答えているときに、どうも説明しきれていないような違和感があった。

多分その理由は、前述したように“人の顔が見えていない”からだ。僕がローカルの領域で発信したいのは、厳しい状況に置かれているからこそ、自分の人生に軸を持ち、新しい生き方に挑戦するカッコいい人に、色んな取材を通して出会ったからだと気付いた瞬間だった。

また、大企業で定年退職まで働くような昔の当たり前がなくなり、生き方は多様化した。都会で働く20~30代の中には、やりがいや居場所を感じられなかったり、やりたいことが見つからない人も多いかもしれない。

そういう人たちと、ローカルで生きるカッコいい人々がつながるメディアがあったら良いかもしれない、そんな思いでおきてがみは生まれた。

地方創生が盛んにいわれ、さまざまな移住施策や事業が進められているが、自然が豊かや家賃が安いだけではなく、「この人に会いたい」「この人のような人生を歩みたい」と思えるような出会いが、次の一歩を作るのではないかと思っている。

あらためてこのような自分の思いや考えを言語化できたのは、今回武田さんの話を聞いてからだった。

ame projectも「秋田」という共通点を軸に、人々がつながり、新しい可能性を生むプロジェクトなのだと思う。貢献できる領域は少ないが、関われたことを誇りに思う。

僕にとっての「ローカル」とは――武田昌大さんインタビュー編集後記
取材後はANDONで一杯
Profile image
1992年生まれ、秋田県北秋田市出身。主に、東京にこだわらない働き方を支援するシビレ株式会社と、編集デザインファームのinquireに所属。ローカルとテクノロジーの領域に関心があります。情報発信を通して、挑戦する人を後押しできればと思っています。